ARROWS見聞録

ARROWS 見聞録



一杉太郎     


Autonomous Research for Real-World Science(ARROWS)Workshop

米国コロラド州ゴールデン(標高1700メートル)で開催された Autonomous Research for Real-World Science(ARROWS)Workshop に参加した。主催は National Renewable Energy Lab(NREL)で、米国内の自律・自動化技術に取り組むグループが招かれ、薄膜系や顕微鏡技術にやや重点が置かれていた。国際枠としては我々のみが参加し、Dr. Zakutayev と交流する機会を得た。装置の連結や標準化、データ収集などの分野で、我々の研究に強い関心を寄せてくれており、成果としては「Perspective(展望論文)」をまとめることが予定されていた。テーマを決めて議論し、ブレインストーミングを行う時間も設けられた。

米国では理化学機器企業間の協働はほとんど見られず、各社が競合しているため、日本の取り組みに大きな関心が示されたのが印象的であった。一方、米国のマテリアル系企業は自動・自律技術についてはまだ様子見で、関心は高くないように見えた。この点は我々が産業界でリードするチャンスと言える。日本のシステム化されたラボの先進性が国際的にも稀有であることを再確認した。

研究者を刺激することが重要: 可視化技術

研究者を刺激する上で、画像化や可視化技術の重要性も強調されていた。NRELやLBNLのチームでは、サイエンスの理解を深めるためにデータを視覚的に表現し、VRゴーグルを用いて三次元での解析を行っている。また、実験装置の動作やスケジューリングをデジタルツインとして表現し、ミクロとマクロの融合を進める動きが見られた。こうした視覚化は、人間に新たなアイディアをもたらし、理解を深めるうえで非常に有効だと感じた。研究データから知識を導出できていない現状に対しても、可視化が直観的理解につながる可能性を感じている。

マテリアル研究に取り組む人材の中にはコンピュータサイエンスの専門家も多く、データ処理や可視化の分野で活躍している。NRELにはそのような人材が複数おり、話を聞くと珍しいことではないとのことだった。生成AIの活用も進んでいる。大きなループを意識する必要があるが、この点は日本が今弱い部分であると感じた。

注目すべきグループ

米国内で実際に自動・自律実験を進めているのはおおよそ10グループ程度で、国立研究所の多くがその取り組みを進めているとの情報もあった。自動実験を標榜しているグループの数はその2倍以上あるようだ。これに対して、日本ではおよそ5グループほどであり、その中で実際にマテリアル研究へ活用しているのは2、3グループといわれている。東京大学(東京科学大学)、NIMS、豊田中央研究所などがその代表例である。

具体的な注目グループは以下である

  • 1. North Carolina: Abolhasani
    • Quantum dot: Autonomous
    • フロー化学を活用
  • 2. Maryland: Takeuchi
    • 薄膜作製Autonomous
  • 3. IBM Polymer Foundation Models
    • フロー合成
    • 物質の表現法を定義-無機材料は難しい cf. 有機物SMILES表記
  • 4. Oak Ridge National Lab: 自律システム 薄膜
  • 5. PNNL: Liang 触媒材料
    • Unchained Lab製
  • 6. NREL: Zakutayev 太陽電池他 薄膜系
  • 7. Argonne National Lab 電池他
  • 8. UC Berkeley: Ceder 電池

NRELも見学したが、ハードウェア面では圧倒的に我々が進んでいると感じた。一方で、自動化研究の強みと威力を改めて感じ、人間がこれまで活用してこなかった情報を生かしていくことの重要性を再認識した。従来の人間による特徴量抽出と異なり、周辺情報も含めて包括的に取得できるため、これまで人間が見過ごしていた情報を活用できる可能性が大きく広がる。

Chemistry and Physics views of materials

化学では「原子」に注目し、実空間における原子結合や分子構造を基本とするため、化学式は固定されている。これに対して物理では「結晶」に注目し、逆格子空間で周期性を捉えることで固体物性を扱い、欠陥形成やドーピングによって特性を制御するという考え方をとる。この視点の違いは、今後の材料研究を進める上でも大きな示唆を与えるものだと感じた。