Liverpool大訪問

MRS 見聞録(2024秋)



一杉太郎     


最も印象に残ったこと

今回の参加で最も印象に残ったのは、機械学習や自動・自律実験、生成AI(特に大規模言語モデル:LLM)に関するセッションが、3時間程度の枠で並行して複数開催されていたことです。これらのセッションは二つも三つも同時に走っており、どれに参加すべきか迷うほどの盛況ぶりでした。特に、生成AI(LLM)の応用を模索する研究が多数発表されており、活発な議論が交わされていました。

また、自動・自律実験に関するセッションだけでも1から6まで用意されており、この分野の急速な広がりを実感しました。

さらに、マテリアル研究の将来について考える上で特に印象的だったのが、Microsoft、Meta、Google、そして場合によってはTeslaなどの巨大企業が、マテリアル分野に本格参入してくるかもしれないという議論です。これらの企業が「材料研究は収益性がある」と見なすかぎり、競争相手は従来の研究機関ではなく、彼らになるかもしれません。

半導体業界では設計と製造が分離され、ファウンドリービジネスが確立しています。では、材料の世界でも同様に、試作・製造を請け負うような新たなビジネスモデルが生まれるのか。材料は実用化までに長い時間が必要となるため、この点をどう乗り越えるかが問われています。

注目すべきは、米国政府が国家レベルで自動・自律技術への投資を本格化させていることです。まずは半導体分野に対して150億円規模の投資が決定され、今後はさらに別の分野にも展開される予定です。この背景として、複数の政策文書や説明スライドも共有されました。


米国の動向

米国の政策的な動きとしては、以下の点が挙げられます:

  1. AI Aspirations: R&D for Public Missions
     ホワイトハウスが発表した、AI技術を公共目的の研究開発に活用するという大方針です。
  2. CHIPS for America
    米国における半導体産業の競争力強化プロジェクトで、総額約520億ドル(約8兆円)が投じられています。
    詳細:https://www.nist.gov/chips/funding-updates
  3. Materials Genome Initiative (MGI)
    2024年には「Grand Challenges(大きな挑戦目標)」が設定され、自律実験に関する政府主催のワークショップも開催されました。
    MGI 2024 Challenges(×)Autonomous Experimentation Workshop(×)公式レポートPDF(×)
  4. 【特に重要】
    これらの動きを背景として、機械学習と自動・自律実験システムを活用し、半導体開発の加速を目指す国家プロジェクト「CARISSMA」が立ち上げられました。このプロジェクトには1億ドル(約150億円)の規模で投資が行われており、関与するのは複数の政府機関や国立研究機関にまたがる、まさに国家横断的な取り組みです。

2024 Juneに開催された政府の自律実験に関するレポート

2024年6月に開催された米国政府の自律実験に関するワークショップでは、ファンクショナルセラミックス(機能性セラミックス)に特化した議論も行われました。その要旨を以下に紹介します。

機能性セラミックスと自律実験の課題

ファンクショナルセラミックスは、高温処理、ボールミル、焼成、加圧など、複雑な合成と特性評価が求められるため、完全に自律的な実験システムの導入が難しい材料群とされています。
そのため、まずは現在の技術的な到達点が以下のように整理されました。

現在の技術的能力(Current Capabilities)

・自律型ラボの構築が進行中:
 原料から固体への合成、評価に至るまでの一連のプロセスを対象とし、産業界・学界・政府がそれぞれ主導的な役割を果たしています。

・主要なディスカバリーラボ:

  •  ◦産業界:Google DeepMind、Microsoft Azure、Samsung A Lab、Toyota Researchなど
  •  ◦学術機関:Berkley A Lab(Ceder Group)、AMDEE Johns Hopkins(Elbert Group)
  •  ◦政府系:PNNL(SPPSi)、Berkeley Lab(Materials Project, A Lab)、Argonne(Polybot Echembotetc.)

・データベース資源:
 ◦Materials Project(DOE)、ICSD、NIST(Phase Diagram、Thermocalc、Calphad)
 ◦Citrine(データインフォマティクス)、Open MSI Stream(NSF)

計測機器・装置:

・MTI、Bruker、ThermoFisher Scientific などが主要機器ベンダーとして挙げられています。


技術的課題とギャップ(Gaps)

この分野で解決すべき主な課題は以下のとおりです:
・実験設計の重要性が増している。人間にしかできない設計判断を、ロボットにどう置き換えるかが鍵となる。
・機能性セラミックスに特化したロボット設計が不足しており、新たな設計思想が求められる。
・異分野連携が重要。計算科学者、材料科学者、ロボティクスの専門家が連携する必要がある。異なる分野出身の学生間で、視点や生産性の違いが顕著である。
・民間と公的部門の連携が不十分であり、AI/MLに強みを持つ産業界の主導権に対して、公的側の関与が相対的に弱いという課題が浮き彫りになっている。
このように、機能性セラミックスにおける自律化の推進には、技術的な成熟とともに分野横断的な連携、政策的な支援が不可欠です。特に、AI/ML技術を活用する大手企業との連携や、装置・インフラ整備の方向性が今後の成否を左右するものと考えられます。
詳細なレポートはこちら: MGI Autonomous Materials Innovation Infrastructure Workshop Report (PDF)


Aspuru-Guzikグループの動向(トロント)

Aspuru-Guzikグループは、化学および材料科学における自律型研究の最先端をリードしています。特に、2024年にTomらが発表した**レビュー論文「Self-Driving Laboratories for Chemistry and Materials Science」(Chemical Reviews)では、ラボの自動化に関する総合的な視点が提示されており、今後の研究の羅針盤となる内容です。
また、Matter誌に掲載された「Challenges and opportunities for AI in synthetic solid-state inorganic chemistry」(Matter 7, 5–8, 2024)では、固体無機化学におけるAI活用の課題と展望が詳述されています。
今後の注目点として、オーケストレーションソフトウェア「ChemOS 3.0」の展開が挙げられます。自律実験の中核をなすこの種のソフトウェアは、別ページでも議論されているように極めて重要です。
また、近年創刊された学術誌「Digital Discovery」の存在感が急速に増しており、AIや自動化分野の論文掲載の場として注目を集めています。
さらに、SILA(Standardization in Lab Automation)を導入した点も見逃せません。我々もOPC-UAのような、世界標準となりうる規格を積極的に採用することが望ましいと考えられます。


計算技術の進展:無機材料の合成経路予測

無機材料の合成可能性や経路を予測する計算技術の発展も目覚ましく、以下のような研究が進んでいます。
特に、ソウル大学のJungらによる研究では、大規模言語モデル(LLM)や敵対的生成ネットワーク(GAN)を用いた合成経路や結晶構造の予測手法が提案されており、新たな手法として注目されています。たとえば、Chem. Sci. (2024, 15, 1039)では、要素別テンプレートを使った無機結晶材料の合成レシピ予測が紹介されています。また、JACS (2020, 142, 18836)では、部分的に教師あり学習を用いた結晶の合成可能性の予測手法が提案されています。
他にも、BerkeleyのGallantによるMT02.06.02や、CederグループによるARROWSも代表的な取り組みです。ARROWSは熱力学的安定性だけでなく、速度論的要素も考慮に入れるものであり、完全に計算だけで正確に予測するのは難しいものの、自動実験と組み合わせて逐次検証しながら予測をリファインしていくという実践的な方向性が示されています。


生成AIに対する期待

生成AI、とりわけ対話型AIの活用が研究開発の場面で大きく期待されています。対話型システムに入力する具体的な質問例は以下です。他にアイディアが会ったらぜひお知らせください!

1. 特性Xを持つ材料を作りたい。その候補を教えて。
 逆問題を解決するために活用

2. 物質AxByCzを作りたい。
 作製するのに最適な温度と酸素分圧を教えて。

3. A現象が起きるのはなぜ?背景にある物理と化学を教えて。

     
  • 3-2. 【状態の把握】今の装置の状態を教えて。試料Aはいまどこにあり、何を測定している?
  •  
  • 3-3. 【指示】Aにある試料をSEMに入れて、1,000倍の倍率で表面観察せよ。次に、表面の付着物は10,000倍に倍率を上げてEDS測定を行い、組成を分析せよ。

4. 【報告】次のビッグデータから相関関係を見つけて報告せよ。

5. 【報告】データベースから○×について調べ、レポートせよ。

6. 研究のアイデア生成から査読に至るまで、機械学習研究の工程を実行せよ(Sakana AI)


全体を通じた感想

本分野の発展にあたり、以下の観点が特に重要だと感じました:

     
  • LADS(Laboratory Automation and Data Standard) の使いこなしが今後の鍵となる。
    自動・自律実験システムは極めて 学際的(interdisciplinary) な領域であり、ロボット、制御、材料科学、AI、スケジューリング、数理科学など、多様な知識が融合する必要があります。
    人材育成においては、ハンズオン型の ブートキャンプ 体験型工房 、さらには大学における「自律実験版の工作室」の設置が有効です。
    そのためには、ノウハウを蓄積し、装置も共用できる 拠点の整備 が不可欠です。
    Benji Maruyama 氏(ナノチューブ研究で著名)は、自律実験の分野でも先駆的な役割を果たしており、今後のキーパーソンの一人です。
    最後に、 標準化 の重要性も強調されました。試料サイズ、実験プロトコル、装置接続口の仕様など、共通基盤の整備が必要です。
  •  

オーケストレーションソフトウェアの重要性

現在、自動・自律実験において、システム全体を統合・制御する「オーケストレーションソフトウェア」の役割が極めて重要視されています。中でも代表的なものには以下のような例があります:
ChemOS:研究現場で広く採用されている代表的なプラットフォーム。
Aiida および FINALE:ヨーロッパの複数の研究機関で採用されており、材料研究の標準インフラになりつつあります。
AEcroscopy:顕微鏡の自動化・自律化プラットフォームであり、最近ではLLM(大規模言語モデル)を活用したスクリプト作成も行われています。
OPTIMADE:材料データの共有を可能にする仕組みであり、「datalab」等と連携が進められています。
こうした中、日本では「どのようにして国産ソリューションを開発するべきか」が問われています。バラバラにシステムを構築するのではなく、NIMSや産総研などの主要機関を巻き込み、数学・スケジューリング分野の専門家と連携しながら、統合されたソフトウェアを皆で共同開発すべきではないかという議論が展開されています。


体験工房からプラットフォームへ、そして世界拠点へ

自律型実験の普及に向けた段階的展開

自律実験の現場は、単なる「体験工房」から「統合プラットフォーム」、そして「国際的拠点」へと拡大する方向性が示されています。 まず目指すのは、誰もが使いやすく、導入コストも低く、着実に成果を出せる研究環境の構築です。そのために、
  • 自動実験モジュール を開発し、それらを自由に組み合わせて使える柔軟な研究環境(Plug & Play型)を構築。
  • 全体を統括する オーケストレーションソフトウェア の整備。
  • 機械や通信プロトコルの 標準化 を推進。
これらと並行して、生成AIを活用した材料研究の加速、欧米・アジアの国際的研究拠点との情報交換、若手人材の育成(講演会、ブートキャンプ、海外派遣)、企業や研究機関を巻き込んだ コミュニティ形成 (例:一杉研デジラボ研究会は40社以上が参加)など、多方面からの展開が進められています。


Automating Battery Workflow with Aiida - Toward Autonomous Labs that are FAIR by Design G. Pizzi (PSI)

Paul Scherrer Institute(PSI)のG. Pizziらは、AiidaとFINALESを中心に、FAIR原則(Findable, Accessible, Interoperable, Reusable)に準拠した自律研究システムを構築しています。
・AiidaはGUI、データ管理、装置制御を包括的に管理可能な 統合ソフトウェア です。
・FINALESはモジュール型の自律実験ラボ設計プラットフォーム。
・JSONスキーマなどの共通化技術も導入されており、 Materials Acceleration Platform (MAP) として複数の欧州研究機関で運用されています。
これに対して、日本では「独自ソフトを開発すべきか」「英語のまま使うか、それとも日本語化するか」「企業は自社で作るのか」といった課題が浮かび上がっています。


Accelerating Process Development for Semiconductor Device

Fabrication LAM Research, R. A. Gottscho半導体プロセスの自動化

LAM Research社のR. A. Gottschoは、「半導体デバイスの製造工程の開発加速」において、人とAIの役割分担が鍵を握ると述べています。
現在、回路設計は完全にデジタル化されていますが、実際の製造プロセスには未だに勘・コツ・経験に頼る部分が多く残っています。今後はこのプロセス部分もデータ駆動型のデジタル化が進むと見られています。
特に注目されているのは、「人間が研究の大方向を設定し、細部をAIロボットが詰めていく」というHuman-first, machine-lastのアプローチです。仮想空間での不完全な予測からも価値ある学習が得られるとし、人と機械の協調によって、開発期間の短縮やコスト削減が期待されています(参考:Kanarik, Nature, 616, 2023)。


Microsoft:AIエミュレーターと生成AI

Microsoft は、材料研究においてもAIを積極的に導入しており、以下のようなツールを公開しています:

MatterSim :材料の特性をリアルな条件下で模擬する深層学習モデル。従来より100倍以上の高速化を達成しています。 →MatterSim紹介ページ

MatterGen :生成AI(Diffusionモデル)を活用して、所望の特性を持つ材料を検索するシステム。

このように、Microsoft、Google、Metaといったテック大手が次々に材料研究に参入している現状は、今後の研究体制に大きな影響を与える可能性があります。国内でもこの動向を継続的にウォッチする必要があります。すでにPFN(Preferred Networks)など日本の企業も関連成果を発表しています。


計測分析分野

近年、AIを活用した電子顕微鏡の自動化・自律化が急速に進んでおり、関連するセッションも数多く開催されています。特に「AI for Electron Microscopy」というテーマのセッションが3つも設けられており、現場の関心の高さがうかがえます。

これらのセッションでは、単なる装置の自動制御だけではなく、「装置オペレーションやデータ解析、前処理に必要な“勘・コツ・経験”」を機械学習によってデジタル化・形式知化する取り組みが紹介されました。加速電圧やスキャン速度といった測定パラメータの自動チューニングにより、誰もが専門知識なしで高度な測定を行えるようになることが目指されています。

従来はデータ取得後に行っていた解析作業についても、今では「測定中のリアルタイム制御」へのAI活用が検討されており、測定の質とスピードを同時に高める方向性が示されています。

走査プローブ顕微鏡と自律制御

電子顕微鏡だけでなく、走査プローブ顕微鏡(SPM)においても、外部からの自律制御の実現が重要視されています。従来はユーザーが手動で設定していた測定周波数や走査速度、各種パラメータを、AIによって自動的に最適化する試みが進んでいます。

また、この分野では標準化の課題も大きく、日本発の取り組み「MaiML」に対する関心が高まっています。MaiMLは、MRSなどの国際学会での発信が期待されており、早期の英訳と標準化が求められています。ただし、運用面では多数の実務的な課題があるため、JAIMA(日本分析機器工業会)の技術委員会における議論や整理が重要な役割を果たすと見られています。


計測分析メーカーはビジネスチャンス

自動化や装置の共用化が進む中で、装置メーカーのビジネスモデルにも変化が求められています。以下のような変化が想定されています:
  1. 共用装置が導入されることで販売台数が減少するリスク。
  2. 自動化によって装置の稼働率が上がることで、同様に販売数が減る可能性。
  3. それでもなお、多様なセンサーやオペランド計測の需要は増加しており、計測機器自体の機能的な価値は高まっている。

また、単に装置の知識を持つだけでは不十分であり、今後はプロセスそのものへの理解を深め、「装置+プロセス全体としての提案力」がメーカーには求められています。


実験機器の進化

将来的には、計測機器もパソコンのような構成になると予測されています。外部からの制御を可能にすることで、計測装置に搭載されるソフトウェアがサードパーティ製になる可能性が高まります。これは以下のような変化を意味します:

  • ハードウェア(計測装置)は共通で、OS(基本ソフト)やアプリケーションを選択して運用するスタイルになる。
  • ソフトウェア面での競争が激化し、計測機器メーカーは「ハードだけ作ればよい」時代から、「ソフトウェアで差別化する時代」へと移行する。

また、外部制御ができない装置は市場で選ばれなくなるリスクもあり、業界としてのソフトウェアアーキテクチャの方向性が問われています。OSを共通化し、その上で各アプリが動く構造を目指すのかどうかは、今後の議論が必要です。

機械学習とロボット時代における計測装置のあり方とは

生産工程の多くがすでにデジタル化されつつある今、計測分析装置がその波に乗り遅れることはできません。次の問いが強く投げかけられています:

  • 5年後、10年後、あるいは2035年に、理化学機器産業はどのような姿になっているのか?
  • 今後の装置は、どのような役割を担い、どう進化していくのか?
  • 人とAIロボットが協調して運用する環境において、計測装置はどこまで自律化されるのか?

このような未来像を描きながら、今まさに、業界全体としての戦略的判断と実装フェーズに突入しています。


Kebotixの発表から

米国のラボシステムインテグレーターであるKebotixの発表は、非常に示唆に富む内容でした。Kebotixは、自律実験まで含めたクローズドループのシステムを構築できる企業であり、材料研究の自動化に取り組む上で、興味深い方向性を提示しています。 (Kebotix公式サイト)

データ取得のコストと量の問題

彼らが強調していたのは、「マテリアル分野におけるデータ取得のコストは非常に高く、かつそのデータ量は少ない」という現実です。これは、情報科学や機械学習の分野に比べると、極めて制限のある条件で研究が進められていることを意味します。そのため、依然として"研究者の勘や経験"、いわゆる“職人技”が必要不可欠な状況が続いています。

AIへの不信感と職人の最適化限界

また、Kebotixは「ドメイン研究者の多くはAIを信用していない」とも述べていました。確かに、現場では「人間が一番」「経験がすべて」と考える方が多いのが現実です。しかし、冷静に確率の観点から見ると、職人技も多くの場合「局所最適化にとどまっている可能性が高い」といえます。こうした信念や慣習が、AI導入の壁となっている側面もあるのかもしれません。

人材不足の課題

加えて、自律実験やAI活用を担う人材が圧倒的に不足しているのは明白です。人材育成スピードが技術の進展に追いついておらず、教育面での整備が急務です。


材料科学における機械学習:MRSのチュートリアル

2024年12月1日に開催された**MRS(Materials Research Society)**のチュートリアル「Machine Learning in Materials Science: From Basic Concepts to Active Learning」にも参加しました。

この講義は、米国NISTのAustin McDannald氏と、メリーランド大学の竹内一郎先生の密な連携のもと実施され、材料科学における機械学習の基本から応用までを網羅した内容でした。

チュートリアルの構成

最初に、小規模データにも強いGaussian Process(GP)という機械学習手法の紹介から始まり、これを使ったActive Learning(AL)という自律的な実験設計手法へと進んでいきました。特に注目されたのが、Autonomous Phase Mapping(自動相図構築)への応用で、これは構造と物性の関係を探索する上で非常に有効です。

講義の中では、世間で語られる「AIバズワード」に踊らされず、科学的探究に真に役立つ手法とは何かを解説することに重点が置かれていました。コンピューターサイエンスの非構造データ処理とは異なり、材料科学には特有の課題があるため、ML/AI手法のカスタマイズと適応が重要であるという指摘もなされました。

特に、「ハイパーパラメータの設定が非常に重要である」という点は何度も強調されていました。

チュートリアル受講後に得られるスキル

参加者は以下のようなスキルとリソースを習得できました:

  • Gaussian Processを材料科学特有のデータ解析に応用する方法
  • Active Learningを使って自律実験キャンペーンを構築する方法
  • Autonomous Phase Mappingを使って構造とプロセスの関係性を明らかにする方法

なお、チュートリアルで使用された教材は、Google Colaboratory上に公開されており、実際のコードとともに学習できる形式になっています。 ➡公開ノートブックはこちら

このように、材料研究におけるAI活用と自律実験の実現に向けた取り組みは着実に広がりつつありますが、人的リソース、教育、信頼性、実装環境の整備といった複数の課題がまだ残されていることも事実です。今後の進展がますます注目されます。


12月2日(月)午前

この日は午前中だけで、マテリアルズ・インフォマティクスに関する注目セッションが3件同時に開催されました。いずれも10:30から12:00まで、ボストン市内のSheratonまたはHynesで実施されました。


BI01.01: Groundwork for Discovery – Democratizing the Future of Materials Science  場所:Sheraton, 2階, Constitution B
材料科学の未来を広く開かれたものとするため、教育機会の拡充、研究インフラの共有、データアクセスの民主化など、誰もが材料研究に貢献できる環境構築の方策が議論
EL04.01: Machine Learning and Automated Methods  場所:Sheraton, 2階, Republic B
機械学習や自動化技術を用いて、実験や材料探索の効率を飛躍的に高める方法が紹介され、実用化の進展や研究フローの変革に関する最新成果の発表
MT04.01: Large Language Models for Materials Discovery  場所:Hynes, 2階, Room 210
大規模言語モデルを活用し、膨大な文献からの知識抽出や実験提案を行うことで、材料発見を加速する次世代のアプローチを実例を交えて紹介

非常に人気の高いセッションばかりで、どれに参加するか迷う状況でした。午後のセッションについては省略します。


12月3日(火)

AI・MLによる材料開発と予測

この日は、午前から夕方までAI・MLを中心としたセッションが続き、特に「自律材料開発」や「プロパティ予測」の話題が多く取り上げられました。


MT04.03: Algorithms and Methodologies for Autonomous Materials Development Systems I  時間:8:00–11:00
材料開発を完全自動化するためのアルゴリズムや手法に関する最新研究が紹介され、ロボティクス、フィードバック制御、実験計画自動化の最前線を議論
MT02.05: Machine Learning for Materials Property Prediction I  時間:10:30–12:00(Hynes, 2階, Room 209)
機械学習を用いた材料物性の予測に関する研究成果が共有され、データ駆動型モデリングや転移学習の応用例に焦点

午後のセッションでは、次のような議題がありました:


BI01.05: Tools in Materials Research(Sheraton, Constitution B)
材料研究の進展を支える各種ツール—計測技術、計算手法、データ管理基盤など—に関する革新的アプローチの発表
MT02.06: Machine Learning for Materials Property Prediction II(Hynes, Room 209)
物性予測のための機械学習手法に関して、実験データの活用やマルチスケールモデリングとの統合事例の紹介
MT04.04: Materials Informatics via Scientific Machine Learning and Text Mining(Hynes, Room 210)
科学機械学習やテキストマイニングを用いたマテリアルズ・インフォマティクスの最先端が紹介され、文献からの情報抽出や知識発見の手法の議論
MT02.07: AI-Driven Autonomous Experimentation I(開始時間:15:45)
AIを活用して実験の意思決定や実行を自動化する試みに関する研究が紹介され、自律的な材料探索の実現に向けた具体的手法を議論

このセッションでは、産総研・室賀さんの発表もあり、ポリマー実験の自動化や、LLM(大規模言語モデル)を活用した自律実験の取り組みが紹介されました。


12月4日(水)午前

この日の午前中も先端的なセッションが揃っていました。特に、自律実験の発展と測定プラットフォームの民主化に焦点が当てられていました。


MT02.09: AI-Driven Autonomous Experimentation II(Hynes, Room 209)
AIを活用した実験の自律化に関し、実験条件の最適化、リアルタイム分析、ロボットとの連携など、自動化された材料開発プロセスの応用事例を紹介
MT04.06: Active Learning(Hynes, Room 210)
機械学習における能動学習の手法が議論され、限られたデータで高精度な予測を実現するための実験選定アルゴリズムやその材料科学への応用の紹介
BI01.08: Democratizing Measurements & Platforms for Data-Driven Experimentations(Sheraton, Constitution B)
データ駆動型実験を支える計測技術や実験プラットフォームの共有・標準化に関する取り組みが紹介され、研究環境の平等化と加速を目指して議論
SF02.07: Transforming Material Design: Innovating High-Throughput methods for Fabrication, Evaluation and Prediction
材料設計を革新するためのハイスループット合成・評価・予測手法の開発事例が紹介され、加速された材料探索の新戦略が提示された

午後のセッションは省略します。


12月5日(木)午前

木曜の午前中は、AIを用いた逆問題解決や、材料発見のための生成モデル、フェーズマッピングに関する議論が中心でした。


MT02.12: AI-Driven Autonomous Experimentation IV(Hynes, Room 209)
AIによる実験自動化セッションで、材料合成や測定の自律化に関する最新技術とその統合的実装例が紹介され、完全自動ラボへの展望が議論された
MT04.10: Generative Models for Inverse Materials Design II(Hynes, Room 210)
生成モデルを用いた逆問題としての材料設計に関し、所望の物性を満たす構造の生成や、深層学習による材料候補の提案技術
EN08.09: AI/ML Assisted Discovery of New Materials(Hynes, 3階, Ballroom C)
AI・機械学習を活用して新材料を発見する研究成果が共有され、電池材料や触媒など応用分野を含むデータ駆動型の探索手法を多数紹介
BI01.11: From Data to Discovery in Materials Science(Sheraton, Constitution B)
材料科学におけるデータ活用から発見までの過程を扱い、データ統合、解析、可視化による知識創出の実例と、それを支えるツールや枠組みを議論

午後と12月6日(金)の内容は省略します。


参考情報と資料の概要

MRS内にAI分科会設置へ

AI Topical Community in MRSの設立が予定されており、今後MRS内でAIに特化した研究者ネットワークが形成されていく見込みです。

CARISSMAプロジェクト(資料1)

CHIPSプログラムの一環として設立されたAI・自律実験開発プロジェクト。正式名称は「CARISSMA(CHIPS AI/AE for Rapid, Industry-informed Sustainable Semiconductor Materials and Processes)」。 半導体製造における革新的なAI・自律技術の開発を目指しており、総予算は約1億ドル(約150億円)、1件あたりの助成金額は2,000万~4,000万ドル(約30~60億円)となる見込みです。

MGIの今後の方向性(資料2)

NISTのJim Warren氏によるプレゼン資料。Materials Genome Initiative(MGI)の戦略的方向性と、AI活用による材料研究の民主化に関するビジョンが示されています。

MGIワークショップ報告書(資料3)

2024年6月10~11日に開催された「MGI Autonomous Materials Innovation Infrastructure Workshop」の内容をまとめた詳細なレポート。MGIによる自律実験インフラ構築の現状と展望が紹介されています。